税理士事務所の新人の仕事の覚え方

2018年08月12日高橋

税理士事務所就職相談室の税理士 高橋寿克です。

「税理士事務所の新人の仕事の覚え方」

 

税理士試験が終わりました。まずはお疲れさまでした。

今年は、スタッフからの報告が比較的順調です。
うちのスタッフが頑張って本当にできたのか、問題が簡単だったのか
いずれにせよ12月の結果を待ちましょう。合格者が多いといいな。
税理士法人TOTALも、受験生が戻ってきて、今度は主婦を中心に受験生以外の夏休みが始まっています。

 

向い様からのご質問です。

■年齢 38歳
■性別 男性
■資格 簿記論、財務諸表論、消費税法、国税徴収法
■職歴 運送、バイトなど
■学歴 東北大中退
■会計事務所経験 8ヶ月ほど
■居住地 東北
よろしくお願いします。

 

まず経歴としましては、大学中退後派遣や肉体労働で過ごしてきました。
しかしふと30過ぎたころに、このままで終わるのはもったいないと思い
税理士試験に挑戦することにしました。

 

と言いましても最初は税理士として仕事をしたい、というより
単純に税理士試験に合格して自分でもやればできるんだ、ということを実感したくて受けたというのが実情です。

 

大手の専門学校での通信教育で、仕事をしながらでしたので1年1科目づつの受験でしたが、無事に4年で4科目合格したあたりで、今まで勉強したことを仕事でも活かしたいと思うようになり、会計事務所に転職を考えました。

 

ハローワークで地元の税理士事務所(10人ほどの規模)の求人を見つけ
そこで働くことになりました。

 

入ったのが11月でしたので、年末調整の作業や確定申告の作業などは楽しくやることができていたのですが
4月以降同行で法人のお客様のところに行くことが出てきて
そこで挫折というか、正直取り引きのイメージがわからないような仕訳だったり、どのように請求書などを突合していいのかがよくわからないことが多くなってきました。

 

もちろんわからない部分は聞いたりはしているのですが、わからないことの量が多いといいますか
何がわからないのかがわからないといったところもあり困っています。

 

先日税理士試験の所得税法の試験を終え、今は結果待ちなのですが
法人税の勉強も開始しました。

 

あとは気になる点としては、簿記、財表、消費は受かっているのですが
受かったあと一切仕事などでは使っていなかったので
ほぼ知識が抜けているのです。

 

簿記はおそらく2級レベル、消費は預かったものから仕入れたものを引いて納めるといったくらいの知識です。

 

とりとめのないことになりましたが、質問としましては

Q.

もうしばらくしたら自然とそのような取り引きイメージなどは浮かぶようになり、1人で申告業務など出来るようになるものなのでしょうか?

 

勉強などは嫌いではなく、やる気はあるのですが何をやればレベルアップできるのかがわからないといった感じなんだと思います。

 

A.

取引のイメージは、「自然に」ではなく、請求書や領収書といった帳票を繰り返し見て、必要に応じてお客様と話をしてどこがどう一致するかなど不明点は教えていただくことでできるようになっていきます。仕掛品一つとっても、お客様の作業工程がわからないと計上できません。最初は社会人経験も足りませんし、わからないことが多くて普通です。恥ずかしがらずに聞いていくしかありません。
じっくり教えてもらいましょう。

 

私の恩師 税理士 柳川一美所長 からは、『お客様の仕事に興味を持ちなさい』と繰り返し教えられました。私自身も、お客様の仕事に関係するニュースに対する感度を普段から上げていました。

 

申告書の作成をどれくらいで一人で出来るようになるかは、税理士事務所・所長の方針によるので何とも言えません。

入社したらまずは領収書整理・ファイリング、それから会計入力、一定期間経過後に、じょじょにレベルアップさせて勘定科目内訳書作成、固定資産の登録、そして最後に法人税の申告書作成という流れの事務所も多いことでしょう。

男性には半年から2年程度で申告書作成をさせる税理士事務所が従来は多かったように思います。女性には数年(ひどいと10年)たっても申告書を組ませない事務所もそれなりにあります。

 

向い様は税理士試験4科目持ちなので、8ヶ月で申告書を一人で作成していないとしたら、ややゆっくりめです。

おそらく、社歴の長い年配の職員が多い安定した事務所なのでしょう。

 

最近では、マニュアル化、標準化が進み、一部の税理士法人では早めに申告書を組むことができるようになってきました。

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25年前の夏、私は3科目持ち・法人税法を勉強済で、ハローワークで見つけた地元の十数人規模の税理士事務所に入社しました。

 

前の人のを見て手書きで下書きを作って先輩にチェックを受けて1か月目から申告書を作成しました。お客様訪問の同行は1か月目からさせていただいて、先輩に1社につき2回同行していただき、3か月目には一人で訪問をしていました。社会人経験がなかったので、今思うとどんな対応だったのか、お客様にご迷惑をかけていなかったのか心配になることもありますが(実際、1社だけクレームになりました)。

 

税理士法人TOTALでは、時代に合わせて手書きはやめて、業務の標準化を進めた結果、今では簿記3級レベルのスタッフでも入社3か月以内には法人税法の申告書を無理なく作成することができるようになっています

(簿記3級すら未習だったのに入社1か月目に申告書を作成したスタッフもいます。すごい!)。

もちろん、しっかりしたチェックシステムがあるため、品質も一定以上に保たれます。

昔、寿司職人は「飯炊き3年握り8年」で合計10年以上の修行期間が必要とされていました。情報を与えずに見て覚えろ、まねて覚えろ、技術は盗めではホリエモンが言うように馬鹿げています。

今では、寿司アカデミーに通えばわずか1年で一人前の寿司職人になれます。その人の能力や目的に応じて合理的で必要な教育訓練をすればいいだけのことです。

 

税理士法人TOTALでは、いつ訪問、同行するかはスタッフの社会人経験や希望もある程度考慮して決定しています。

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税理士試験で勉強したことは使わなければ忘れます。特に順調に1年で合格した科目ほど忘れます。私は、勉強した内容を忘れすぎないように、2~3年勉強して2科目以上合格したら実務につくことをお勧めしています。実務で使うことが一番知識を定着させます。

 

税理士試験は、暗記と速記力・計算力が重視される試験です。論理的でもアカデミックでもありません。このため受験期間中は、頭が良い人ほど税理士試験は不合理だと愚痴りたくなるかもしれません。

ただ、実務をやってみるとわかります。苦労して何年も理サブを回した税法の理論は意外と忘れない。実務でも結構その知識を使う(だって、理サブは条文そのものですから)。

あの速記力・計算力だって実務家のスピードを考えるとプロになるのには必要な資質です。お客様の前でゆっくり処理することはできません。

 

仕事のレベルアップをするためには私がしたことは

 

(1)まずは、与えられた仕事をよく考えて、ていねいにきっちりと仕上げる。

細かい仕事で1円単位で合わない時も、事実を解析し、理由を発見し、再発防止につとめました。教育係の先輩(いわゆる「お局さん」)が良い方で、細かいミスをきっちり指摘して指導してくれたので、美しい会計データや決算書を作れるようになりました。今でもこの訓練のおかげで、試算表を見た瞬間に異常値がわかります。

 

(2)専門書・条文を読む

自分のお客様の事案について不明点があったら、じっくりと専門書や条文を読むようにしていました。これにより、同様な事案があったときに次回からは精度も

スピードも上がります。

入社間もない税務調査では、条文の解釈を調査官と争って数百万円税額を減らしたし、所轄税務署で第一号の租税特別措置を、条文を読みながら適用しました。

ベテラン職員の多い事務所でしたが、頑張って結果を出したので所長が新しい案件、難易度の高い案件を私にやらせてくれました。20年以上前に、合併比率を計算するために数少なかった高価な実務書を読んだり、社会福祉法人の設立を支援し当時は一冊しかなかった書籍で社会福祉法人の会計基準を学んだりしていました。

 

また、繁忙期を除くと会計事務所は、そんなに忙しくありません。その期間は、広く浅く専門書や専門新聞を読んで、税務の知識をまんべんなく磨き、業務を俯瞰し何がわからないかがわからないということがないようにしました。特に、所得税や相続税は選択していなかったため、閑散期に集中して勉強しました。

 

向い様の

>このままで終わるのはもったいないと思い税理士試験に挑戦することにしました。
>と言いましても最初は税理士として仕事をしたい、というより単純に税理士試験に合格して自分でもやればできるんだ、ということを実感したくて受けたというのが実情です。

というのはすごいよくわかります。

 

私も、士業の仕事をしたいというよりは、

『自分が馬鹿ではないことを証明したい』

『生まれてきた証を何か残したい』

という思いで勉強をしていたので。

向い様は、他の仕事をしながら4年で4科目とのこと、
30歳を過ぎて税理士試験の勉強をスタートしたことを考えるといたって順調です。

 

私の場合、仕事は楽しかったですね。日々、新しいことを学べ、成長を実感し、お客様に感謝されるようになっていく。
上記の最初にクレームが入ったお客様からは、最後は『うちの金庫番』と
また、まわりからは『高橋さんが担当のお客様は幸せですね』と言っていただけました。

 

ここまで読んできて、仕事って大変だなと思われたかもしれません。実際、私は仕事が面白過ぎて、一生懸命仕事をやり過ぎました。このため、仕事と受験勉強の頭の切り替えができず、受験勉強との両立には苦労しました。私は、20代半ばで勉強を開始し2年専念しましたが、結局、税理士試験の合格まで7年かかりました。

仕事をレベルアップするために私が勤務期間中にやりそびれたことがあるとすると、

(3)税理士試験の勉強を仕上げること

です。

向い様には、法人税法の合格のための勉強も忘れずにやっていただきたいと思います。

 

 

お客様訪問を始めた当初は大変です。日々の会計、税法だけでなく、周辺の税法知識、法律知識も必要ですし、経営者であるお客様の相談相手として社会の様々なことを学んでいくことになります。数年たつと多少は楽になりますが、終わりはありません。

勉強が好きな方なら、一生勉強して、一生成長を続けることができます。

税理士という資格は、面白い良い仕事です。

 

消去法で何となく選んだ税理士という資格でしたが、今となっては

税理士は私はの天職だと思っています。

向い様も、大変ですが税理士という仕事を楽しんでみてください。

 

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税理士法人TOTALでは、このあとゆっくり全国展開を進める予定です。10年がかりぐらいで、大阪(神戸、京都)、名古屋、福岡、仙台、札幌、那覇くらいを想定しています。じっくり首都圏で仕事を覚えて、いつか地元に帰りたいという方のご応募を歓迎いたします。

来年の春から夏にかけて、大阪に出店します。

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この記事の執筆者

高橋 寿克

税理士法人TOTAL 代表社員税理士 高橋 寿克

千葉県船橋市生まれ。農家の12代目。税理士・行政書士・CFP®・医業経営コンサルタント。
開成高校、早稲田大学政治経済学部卒。
1999年 高橋寿克税理士事務所を開設。現在は全国16拠点に拡大したTOTAL Groupの代表として、税理士法人をはじめ、司法書士法人、社会保険労務士法人、行政書士法人を擁する。
徹底した業務の標準化やクラウドシステム(マネーフォワード、freee)活用で業務効率化を推進。「あなたと共に歩み、あなたと共に成長したい」を理念に日本一の総合士業事務所を目指している。

TOTALグループでは一年を通して採用活動を行っています

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