会計事務所の求人は若手、未経験者の採用重視へ
2017年08月28日/ 高橋
税理士事務所就職相談室の税理士 高橋寿克です。
税理士試験、お疲れさまでした。
8月は、税理士事務所にとって最大の採用シーズンです。
就職が決まった人も多いことでしょう。
これからの人も頑張ってくださいね。
税理士法人TOTALでは、今月末から来月初めにかけて
税理士試験慰労会 兼 新人歓迎会が各本部で行われます。
新しいメンバーとの交流を楽しみにしています。
引く続き求人も行っています。ご応募お待ちしています。
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缶様からのお問合せです。
■年齢 24歳
■性別 男性
■資格 なし
■職歴 なし
■学歴 高卒
■会計事務所経験 なし
■居住地 九州地方
はじめまして。
税理士および会計士の業界での求人に関して、いくつか気になっていることがあるので質問させて頂いてもよろしいでしょうか。
Q.1
無資格・未経験や簿記2級など最低限の資格保有の状態で派遣やパート・アルバイトから経理などの実務経験を積み、補助者として事務所の正社員を目指すというのは非現実的ですか?
Q.2
ネットでは大体の会計士・税理士の事務所の求人は即戦力を求めており、未経験や無資格では採用される可能性はほぼないと言われていますが、実際のところどうなのでしょうか。
この場合はやはり20代など若年者のポテンシャルや将来性に期待した採用がほとんどですか?
Q.3
税理士・会計士としての資格を持たず、補助者としての業務に専念して独立する気がない場合でも、正社員として採用して頂くことはあり得ますか?
全く勉強する気がないという訳ではなく、業務上必要な知識や資格に向けた勉強はしていきたいと考えています。
長々といくつも質問してしまい申し訳ありません。
ご意見・ご回答をお願い申し上げます。
A.1
現実的です。税理士事務所業界の就職事情はここ数年で劇的に変化しています。
従来は、他の産業から流れてきた20代後半~30代前半の税理士試験受験生が採用の主力でした。
この層が、社会全体のバブル期以来の人不足で急速に減り、
税理士試験受験生が確実に減り続け、特に20代の落ち込みが目立っています。
人不足はしばらく続くことが予想されます。
BIG4をはじめとする大手税理士法人は、数年前までは3科目持ち以上が求人の応募条件でしたが
最近では、1~2科目でOKとする求人票が増えています。
実際には、ゼロ科目でも、学力やコミュニケーション能力が高ければ採用されることがあります。
簿記は、勉強すれば誰でもできますし、会計入力は最低限の知識でできます。
実際、ソフトウエアの普及・発展により、簿記の知識が全くない、お客様の経理担当者(奥様のことも多い)も当たり前に自計化(会社で会計入力)をしています。
パートやアルバイトと正社員の垣根は、会計事務所の多くではあまり高くありません。
(1)子育て中の主婦がパートで入社し、子供が大きくなって手がかからなくなると労働時間を伸ばして正社員になることは普通です。
また、
(2)税理士試験の受験を優先したい方がパートで入って入力事務の経験を積み、申告書を作成し、
科目合格が進んでから正社員になることも珍しくありません。
なお、派遣(紹介予定派遣を含む)で会計事務所に働くのは私はお勧めできません。
会計事務所経営者の感覚では無駄に高くなると感じます。
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税理士法人TOTALも、最近、求人条件を大幅に緩和しました。
経理・税務は簿記3級で問題ありませんし、なければ内定後に勉強してもらっても構いません。
営業事務・総務は分業制が進んでいるので簿記3級すら必要ありません。
通常のパートと、受験スタッフという受験生支援のパートがあります。
最近は、大学生をインターンを兼ねてパートで採用することも始めています。
いずれも労働条件を変えてパートから正社員になることは可能ですし、普通に行われています。
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A.2
未経験者採用、無資格者採用は、上記のように増えています。
会計事務所の所長・経営者の間では
「人がいないよなあ。『良い人』じゃなくて、『普通』でいいんだよ。」
が最近のあいさつの定番です。
『アラサーまでで、3科目持ち以上で3年以上経験していて… 』
そんな方は、勤務先の事務所がしっかり抱え込みます。
いたとしても、BIG4や、給料の高い一部の大手税理士法人か、上場経理に行かれてしまいます。
普通の税理士事務所にはほぼ来ません。
もしそういう履歴書が来たら、勤務していた税理士事務所が手放した人柄・性格に問題のある人か、コミュニケーション能力が欠けている人かもしれません。
即戦力の使いやすい人材などそんなに余っていないので期待していません。
それにもかかわらず、ネットでは、即戦力重視のような書き込みが多いのは
(1)ネットの書き込みが古い
ネットの情報はいつ書かれたかわかりにくく、古い情報も、新しい情報も混在しています。
昔の買い手市場の時代の書き込みがまだ多数残っています。
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実際、当サイトも、3年以上前の記事と、今の記事とでは内容が全く違います。
本来なら、現状に合わせて正確にアップデートすべきところですが、
量が膨大で、整合性も取りにくく手を付けられていません。
申し訳ありません。
会計事務所の採用・求人情報の歴史的資料ということで、
記事の日付を確認しながらお読みください。
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(2)採用されなかった人が書き込むことが多い。
情報サイトの書き込みは匿名ですし、『悪事千里を走る』で、良い情報よりも悪い情報の方が拡散速度は速いです。
応募者のポテンシャルやコミュニケーション能力に問題があったとしても、
会計事務所からのお断りの理由は、
勉強が進んだら とか
経験を積んでから
という婉曲的(えんきょくてき)な表現になります。
また、希望年収がその方の能力に比べて高すぎる場合は、
「即戦力重視なので」という理由にして不採用にすることもあります。
(3)所長が年配者や若手で小さな会計事務所の求人
従業員5人くらいまでの小さな個人会計事務所は、社内教育制度が整っていないところが多く、即戦力重視です。
職人気質で、社会の変化についていけていない一部の50代後半以上の所長の個人会計事務所もいまだにあります。
中でも高齢の経営者は、未経験者を教育しても、できるようになると辞められるか、その前に自分が廃業する年齢になるので即戦力しか雇えません。
所長が40代前半以下の若手の事務所は、所長自身が営業やお客様訪問で忙しく、従業員教育に時間をかけられません。その場合は、勉強が進んだ人や会計事務所経験者、いわゆる即戦力の方が都合がいいのです。
零細企業が経験者を好むのは、そしてブラック企業率が高いのは
別に会計事務所業界に限ったことではありません。
なお、20代前半までは、ポテンシャルはあるに越したことはありませんが、素直さがあれば若さで補えると考えられます。
素直で、まじめに努力する人はきちんと成長します。
それが若さのすばらしさです。
30代以上の未経験者は、資格の勉強が進んでいるか、ポテンシャルが高いか、すぐに使えるキャリアがあるかなど いずれでもいいですが、何を持っているのかを見られることになります。
また、大手の税理士法人は、分業制が進んできているので、
従来に比べると一人一人のポテンシャル・将来性が足りなくても仕組みの中で生産性があげられるようになってきています。
飲食業をイメージするとわかりやすいのですが
大きな組織は、確かに優秀な人も多いけれど、
普通の人に頑張ってもらう仕組みが存在するのです。
A.3
税理士事務所は、いわゆる担当制のところが多く、顧客対応、申告書作成、会計入力、営業事務まで一人で行っています。
これだと、習熟度が一定以上まで上がると作業部分の生産性の限界がきて、給料が上がらなくなります。
このため、税理士事務所によっては、
税理士に合格したら(不満を持たれる前に)辞めてもらう方が気が楽でした。
お局さんや番頭さんの口伝(くでん)くらいしか教育がなく、
教わるのを待つのではなく、
「前の資料を見たり、周りの人の動きを見て(自ら業務の仕方)盗め」
などとも言われていました。
税理士法人ができるまでは個人零細事務所しかなく、生産性の低い徒弟制度が前提の業界でした。
独立のための修行だと割り切って、悪い条件でも主体的に学んでくれる税理士試験受験生の方が都合がよかったのです。
最近では、大手税理士法人は、急速な勢いで製販分離、分業制を進めています。
教育のコストをかけられるのは従業員数が100人以上の税理士法人に限られてきます。
(少人数の税理士事務所では製販一致の方が、分業制より効率がよくなります)
営業力のみならず、採用・人材育成能力でも
零細事業所と大手法人では差が大きくなって、
どの産業も人手不足の中で、大手による寡占が進んでいます。
このため、税理士業界でも独立は減っています。
中堅以上の税理士法人では、人不足で補充がきかないので、独立する気がない(やめない)男性正社員を積極的に採用しています。
独立する人も事務所を大きくするというよりは、ぼっち事務所(所長以外は正社員はおらず、せいぜい入力パートくらいしか雇わない)で効率的に稼ごうという形が主力になっています。
ぼっち事務所は、社会保険を入らずにすむのでその分だけ儲かります。
中途半端に税理士試験の勉強をされるよりも、仕事に専念してくれる方が良いという中堅・大手税理士事務所もかなりあります。
このタイプの事務所は、わかりやすいケースでは
「資格ではお客様のお役には立てません」(だから勉強しないでね)
「資格の勉強は、仕事をしっかりやってから個人的に頑張るものです」(実際は難しいけどね)
などという表現をしています。
「残業は少ない(又はありません)」
「受験生を支援します」
あたりは、採用のためのキャッチフレーズで広告ですからあてになりません。
試験休みがあるか、実際にどれくらい利用されているか、
学費負担があるかどうかで
試験に取り組む姿勢がわかることもあります。
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税理士法人TOTALでは、男女差別とのご批判もいただきましたが、従来から
未受験者や主婦である女性にはあまり税理士試験受験を勧めていません。
日本社会の夫婦の役割分担、家事・育児・介護の女性比率が高い現状を考えてのことです。
(それ自体を肯定しているわけではありません)
男性は、従来、税理士試験の受験をほぼ必須で勧めていました。
日本では、夫の方が妻より給料が高いべきだと普通に思われています。
40代後半以降も男性が仕事の幅を広げて給料を上げて行くために、税理士資格が必要だと考えたのです。
税理士試験日はもちろん、試験休み(法定外の有給です)も取ってもらい、
専門学校の学費を全額負担したり、
それでも合格しないなら30代以上の3科目持ちには
大学院進学を事務所全額負担で勧めたりと
全力で税理士資格取得を支援しています。全額負担は全国でもほとんどないと思います。
(もちろん一定の条件はあります)
それでも税理士試験に科目すら合格しない男性、勉強する気力がなくなった男性がいて問題でした。
ただ、組織が大きくなり、分業制が進むと、経験やマネジメント能力が生きてくるようになりました。
適材適所で、最近では、税理士試験を受験しなくても、組織の幹部として登用された男性従業員もいます。
(女性は資格の有無にかかわらず、従来からマネジメント適性で人事を行っていました)
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缶様の場合、24歳という若さは強みです。
高校を卒業してから今日まで、何をして過ごしてきたのかは確認されると思います。
それ以外では素直な向上心があるかどうかが採否のポイントになる気がします。
少し前に大分に旅行しました。熊本地震の影響がかなり残っていました。
豪雨等自然災害が続きますが、大丈夫でしょうか。
九州も田舎になると、雇用の受け皿になるべき良い税理士事務所があまり存在しないという問題もあります。
その場合は、福岡や、関西・関東で仕事をさがす必要があるかもしれません。
地方に仕事がなく過疎化が進むという問題は
税理士業界でも、この後広がる懸念があります。
なお、税理士事務所業界でも、
人不足を受けて、経験者採用や資格者採用ではなく
新卒採用、第2新卒採用に積極的に取り組む事務所も増えてきています。
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税理士法人TOTALも、学生や20代前半の採用を強化しています。
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また、このサイトもありがたいことに皆様のご質問をいただき、事例が増えてきました。 ご質問の前に、同様な質問が無いかご確認いただけると幸いです。
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お忙しい中ご丁寧に回答して下さりありがとうございました。
やはりこの業界でも人手不足の影響が大きいのでね…。
気になっていたことや昨今の業界の事情まで知ることが出来、大変助かりました。ご回答ありがとうございました。
2017年9月6日 11:58 PM | 缶