Big4(4大税理士法人)の勤務経験と独立
2015年08月15日/ 高橋
税理士事務所就職相談室の税理士 高橋寿克です。
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ソラ様からのお問合せです。
■年齢 31歳
■性別 男
■資格 税理士 法人税合格 2科目税法免除
英検準1級、toeic800点台
■職歴 新卒時Big4税理士法人にて5年勤務
上場会社経理部に1年勤務
現在、新卒時とは別のBig4税理士法人にで勤務
■学歴 MARCH 国立大学院卒
■会計事務所経験 主にSPC税務、M&A税務、企業税務、国際税務をメインに7年程税務を経験しています。
■居住地 東京都
現在、Big4系税理士法人で勤務しておりますが、将来的には独立を考えております。ただ、職務経歴に書かせて頂きましたが、Big4と企業経理部での職務経験しかなく、独立をした場合に必要と考えられる税務経験を自分は有していないのではないかと考えています。
税務は7年程新卒時から経験しておりますが、特に所得税や相続税といった個人向けの税務経験がありません。
Q. 1
独立を考えた場合には、資産税や個人税務を経験できる事務所に転職し、経験を積んだ後に独立というステップが良いでしょうか。
Q.2
独立の場合に、国際税務やM&A、SPC税務、企業向け税務の経験を活かしていくのはやはり難しいのでしょうか?
「国際税務 税理士」でネット上で検索しても独立している税理士の方は資産税などと比較してもあまり出てこないので、独立して国際税務を行っていくのはやはり難しいのかと考えています。こ多忙のところ、大変お手数ですが、アドバイス頂けますと幸甚です。
A.1
資産税や個人税務を経験できる事務所に転職し、経験を積むというステップは独立のためには特に必要ないと思います。
(1)個人税務
個人の確定申告は技術的には簡単で、個人事業主がご自身で申告することが多くなります。大規模事業なら法人化しますので、個人事業主は必然的に中小零細事業主が多くなり、顧問料は安くなります。確定申告は2月から3月前半という特定の時期に集中し、スタッフが疲弊するので、中堅以上の会計事務所では受けたくないと思っている事務所が多いのが実情です。
納税者の方が、税理士に頼まなくても出来ている確定申告ですから、税理士資格をお持ちのソラ様なら普通の申告は冊子・書籍等を見れば難しくありません。
個人税務を中心としている会計事務所は、医科・歯科系がほとんどです。
医科は、単価が高く、業績も安定しています。ただし、大きな会計事務所や、営業ルートを持っている専門の会計事務所以外の参入障壁はかなり高いです。
歯科は、医者に比べると単価は下がりますが、標準化が容易なので、メーカーや問屋と組んだ税理士事務所を中心に専門事務所があります。
それ以外の個人事業はあまりありませんが、美容室、タクシー、コンビニ、生命保険の営業、農業(北海道限定)などの話は聞いたことがあります。最近では飲食も始まっています。
特別な営業ルート・営業力をもって業界ごと抱えるイメージです。
ちなみに、私が勤務していた税理士事務所は、タクシー運転手の申告を年700人分行っており、私自身半日かからずに平均15人分処理していました。
(2)資産税
資産税は、年間1件も相続税の申告をしない税理士の方が多く、従来は、集客が難しいとされていました。税理士の多くは、技術・経験が足りず、敬遠している方も多くおられます。
このため、銀行と取引のある大手税理士法人や、ごく少数の資産税専門の事務所があるのみで、彼らにとっては非常に付加価値がとりやすい状態でした。
数年前から、一部若手や中堅の税理士法人が、ネット、新聞、テレビ等のメディア広告や地道なアナログ営業を活用して非常な勢いで伸びてきています。
法人マーケットの過当競争、医療系の参入障壁に対し、相続税の改正というフォローの風もあり、資産税は税理士業界のラストリゾートとしてみんなが参入してきています。
今日では、ネットで「資産税 税理士」で検索すると大量の広告が出てきます。
みんなが気付いて、みんなが参入してくると過当競争になり、価格は急速に下がります。
「会社設立」費用が20年前の価格の5分の1~10分の1になり、大手の寡占が進みつつあるように、
「相続」マーケットも、ネットで簡単に検索するプチ富裕層については、価格は劇的に下がるでしょう。「相続税申告10万円~」当たり前なんて時代ももう間近です。
利益が上がりにくくなり、ネットで伸びてきた若手の資産税専門税理士法人は、ネット広告を大幅に減らしています。
今から、ソラ様が仕事で使う頻度が低くて競争が激しい資産税の経験を積むために転職する必要はあまりないような気がします。心配なら書籍・専門学校等で体系的に学べばいいでしょう。
そんな中、依然として大型の資産税案件は高付加価値です。ここを狙うなら高い技術と経験を得るための転職が必要です。ただ、その案件を獲得できるかは営業力によるので独立は容易ではありません。
A.2
Big4(4大税理士法人)は、世界的なネットワークに支えられ、ブランド力は絶大です。
特別なソフトウェア、世界に広がる情報網、たくさんの優秀な会計士・税理士…。
国際税務、上場関連・外資系企業向け税務は、Big4が圧倒的に優位です。
個人事務所では技術的にも扱いにくく、クライアントから信用されないので参入障壁があるため、高い価格を維持できています。
これにより、Big4は都心の超一等地に広いオフィスを構えても従業員に高い給与を払うことができるのです。
なお、SPC税務は必ずしもBig4独占ではなく、同等かそれ以上に強い専門の会計事務所(平成会計社 等)があります。ただし、SPCの仕事はソラ様もご存知のようにやり続けて面白いものではありませんし、寡占状態で、堅い金融機関が発注元になるだけに、個人税理士が今から独立して取れるマーケットでないことはむしろ他の分野以上です。
M&Aは、一部の案件以外はBig4の独占ではありませんし、寡占化も進んでいません。最近、中小企業のM&Aは増え続けています。
M&Aは、案件の発掘が重要です。営業会社が熾烈に争っています。ただ、デューデリジェンス・バリュエーション等は、税理士よりも株式評価に対する信頼度が高い公認会計士の方が選ばれやすいでしょう。
なお、中央経済社の税務弘報の今月号(平成27年9月号)に国際税務、M&A、事業再生等のスペシャリスト業務が特集されています。参考にしてみてください。
ちなみに、私もインタビューを受けていますが ご興味がある方は
↓
Big4で培ったキャリアが生きるマーケットで、Big4に勝つ方法は2つ考えられます。
(1)Big4と同品質又はより良いサービスを、安く提供する
Big4の欠点は間接経費や見栄えのため高コストで値段が高すぎること、小回りが利かないことです。集客できる人脈や信用(マネージャークラスの方ならあるかもしれません)、仕組みがあり、業務品質を維持できれば、価格によっては対抗可能です。
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税理士法人TOTALは、複数の有名な上場企業の国際税務(インバウンド)を受託しています。お客様を直接訪問し、よりお客様に寄り添った提案をし、価格もBig4に比べるとだいぶ安くなっています。Big4出身の会計士や税理士もいて一定の事務所規模に達しているため、当社の国際税務は今後も増えると思います。
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(2)Big4 があまり手を伸ばしていないマーケットで勝負する。
例えば、国際税務のうちインバウンドではなく、アウトバウンド・海外業務で勝負する。
高校の後輩の会計士は、ベトナムがまだ注目されていない10年以上前に進出して、今ではベトナム最大級(200人超)の日系企業支援の会計事務所を経営しています。
今なら、例えば、イラン、インド、フィリピン、インドネシア、メキシコなどこれから伸びそうな国で独立する。
他に、中小企業のM&Aや事業再生も営業力があれば面白そうです。
ただ、ソラ様の先輩や同僚の(公認会計士でない)税理士で、
独立して成功した方はどれくらいおられますか?
その方はBig4時代と同様の業務をしていますか?
率直に言って、特殊業務で成功している税理士はあまり多くないのではないかと思います。
独立して成功できるかどうかは、作業処理能力・技術力よりも、最初は営業力=お客様を獲得する力にかかっていると思います。
内勤中心で、外の人間とのやり取りはメールや書類が多く、直接人と話す機会が比較的少ないBig4の税理士にとっては難易度が高いでしょう。
Big4の業務での独立が難しい場合、キャリアチェンジをして、「普通の」税理士として一般的な零細・中小企業税務をターゲットにすることも考えられます。身近で、親身な話し相手として、Big4や公認会計士より、税理士の方が有利になります。上場関連や外資系でない同族会社の企業税務は、税理士業務の主力です。
この場合は、Big4の経験は、しっかりした教育を受けて条文を読める、論理的に考えられる、ハードワークに耐えられることが役に立つでしょう。
ただ、「大は小を兼ねる」は当てはまりません。使う技術やコミュニケーション方法が違いすぎるのです。(独学で試行錯誤して学ぶか、)普通の会計事務所に数年間勤務することになります。独立する修行なら、お客様から遠い最大手税理士法人よりは、独立税理士を多数輩出している中堅の税理士法人か、逆に、町の10人以下の個人税理士事務所がお勧めですが、Big4や上場企業経理よりも待遇・環境は悪くなり、既婚者だとつらいですね。
このため、最近ではBig4出身者の独立は減って、成功する人も少数になっています。
ソラ様の場合も、英語力を生かして、外資系企業の経理に転じるか、独身なら海外に行く手もあるかもしれません(話半分 話1/4以下で聞いてくださいね)
もっとも、どんな時代でも成功する人はいます。
私が独立した時、
「士業を産業化して最低1000人、出来れば1万人の事務所を作りたい」
と言ったら、Big4(4大税理士法人)に在籍している税理士の方から、
「Big4でも(TAXは)数百人だから不可能だ」と笑われました。
(当時としては特別な反応ではありません。)
もっとも、その当時の私はBig4 が何たるかもよく知りませんでしたが…。
税理士法人TOTALはまだまだ成功していませんが、少なくとも1000人の士業事務所までは中期的な視野に入ってきましたし、既にいくつかの大規模事務所も出現しています。
禅問答のようで恐縮ですが、
国際税務やM&A、SPC税務、企業向け税務の経験を活かしての独立は
難しいと思う人には難しく、簡単だと思う人には簡単です。
「Big4出身で成功する人が少なくて、独立する人が少ないのは天の恵みだ」
と心から思えて、あきらめずに努力し続けられるなら、独立はきっと成功するでしょう。
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最近はBig4への就職の質問が多くなっています。若い方が大手の安定・高待遇を求めるのは理解できます。
ただ、Big4の条件が良いのは、他の税理士事務所との競争にさらされにくいマーケットで勝負しているからです。言い方を変えると、Big4に行くと(公認会計士ではない)税理士は独立がしにくい構造になっています。
Big4に就職する場合、税理士2世で継ぐ税理士事務所が決まっている方や公認会計士を除くと、(自分で道を切り開く自信のない)普通の税理士は、Big4で頑張り出世するか、上場企業経理に転職するのが良い、独立は遠回りしても・あきらめても良いと割り切った方が良いかもしれません。
Big4に残るなら、アラフォーくらいまでは繁忙期は連日深夜まで働くのが当たり前というハードワークに耐えて、優秀な公認会計士や税理士と出世を争うことになります。
上場企業経理に転職すれば、給与・福利厚生はBig4以上のところもあるでしょう。ただ、事業会社では、経理はわき役に過ぎませんし、専門性が生きる場面も少ないかもしれません。プロパーの優秀な社員や、監査法人出身の公認会計士との出世争いは容易ではないかもしれませんし、安定の代わりに仕事に熱意はもちにくいかもしれません。
不安定なのを承知で外資系の経理に再度転職する人も出てきます。
何かを選択するということは何かを捨てるということです。
税理士法人TOTALでもBig4出身者は多数面接し、採用し、(退職し)、在籍してくれています。
給与で比べられると、Big4とうちでは勝負になりません。近づく努力はしていますが、すぐには難しいでしょう。
Big4からすぐに転職する方よりは、Big4の後に事業会社や複数の会計事務所で苦労して挫折を経験してきてくれた公認会計士・税理士の方が比較的頑張ってくれているように感じます。
当社は公認会計士がすでに4人在籍しています。今後は、国際税務・上場関連等も伸ばして、BIG4のキャリアを生かせる受け皿も目指す必要があります。
一般法人だけでなく、医療本部、資産税本部、国際税務、上場関連と専門の部署も作り、また営業職、マネジメント職も作り、スタッフ一人一人の経験や能力が生きる適材適所の人事を行って、スタッフの成長を支援していきたいと思っています。
たくさんの税理士を輩出し、税理士法人TOTALに残ってくれている方(現在在籍してくれている税理士・有資格者はあわせて28名)も多いし、独立した方もすでに15名います。独立組はすでに成功した方も、今も成功目指してあるいはマイペースで頑張っている方もいます。
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高橋様、
御丁寧に御回答を頂きまして、ありがとうございます。大変参考になります。
私のBig4における同職の方々で独立している人達については、仰る通り、M&A、SPC等の特殊税務ではなく、中小企業、記帳業務、個人の申告等を行っている方が多いです。マネージャークラスで独立した人達ですと、特殊税務をメインで業務を行われている方もいるようです。
これから個人向けの税務を転職して学ぶというのは、ご記載頂いた内容を拝見すると、考え直した方が良さそうですね。。
何かを選択するということは何かを捨てることという、お言葉は本当にその通りだと思います。ご記載頂いた内容を参考にして、将来考えながら仕事していきたいと思います。ありがとうございました。
2015年8月28日 2:26 AM | ソラ