税理士法人のパートナーと経営、M&A

2018年04月15日高橋

税理士事務所就職相談室の税理士 高橋寿克です。

 

「税理士法人のパートナーと経営、M&A」

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へー様からのご質問です。
■年齢 36歳
■性別 男性
■資格 税理士(平成27年登録、簿・財・法・相・消)
■職歴 会計事務所で11年半勤務(3ヶ所)
■学歴 MARCH
■会計事務所経験
・個人事務所(10名:うち税理士2名:2年半勤務)
・個人事務所(7名:うち税理士1名:5年半勤務)
・税理士法人(13名:うち税理士3名:3年半、勤務中)
■居住地 首都圏

 

初めまして。税理士法人に勤務しております、へーと申します。最終科目の受験後に現在勤務中の事務所に転職し、12月で官報合格を果たしましたのですぐに税理士登録をし、3年が経過しました。

 

ここ最近、このまま現在の事務所で勤務し続けるか、他の事務所に転職するか真剣に悩んでおり、一人で悩んでも何も解決しない為、相談させていただきたいと思います。そこで、現在の事務所の概要と転職理由を以下に記載いたします。

 

【事務所概要】

・東京の都心の税理士法人で、社員税理士2名(50代後半と40歳前半のいずれも男性です。)と所属税理士1名(私です。)その他スタッフ10名です。過去には税理士がもう2名、公認会計士が1名いたのですが、退職してしまいました。

 

・代表社員(50代後半男性)が営業力の非常にある税理士で、黙っていても関与先や他士業、金融機関からの紹介で、関与先の件数が急増しています。しかし、それに反してスタッフは定着しません。

 

・もう1名の社員(40台前半)の税理士は、非常に優秀で税理士としての能力は非常に高いです。しかし、頻繁に出勤しない日があります。それもその日の気分(体調?)次第で、誰にも事前通知なしです。

 

【転職理由】

・関与先が増えることは非常に良いことですが、人手不足で対応しきれなくなってきています。また、規模の大きな関与先が増えてきており、税理士というだけで私に集中しています。また、申告時期が1~3月に集中しており、今回は何とか終えましたが、毎年これではとても続かないと思うのが正直なところです。

 

・法人税、消費税申告書のチェックは社員税理士(40代前半)に受けますが、その他はノーチェックです。所得税や贈与税の申告で簡単なものはそれでもいいのですが、特例の適用を受ける場合や非上場株式の贈与をする場合、もちろん自分でも確認、チェックは十分に行いますが、チェックを受けないと不安です。

 

・もともと税理士法人の前身が代表社員の個人事務所であり、関与先の大半もそこからの延長です。代表べったりの関与先が多く、代表が引退するとなったら大半が離れると思います。冗談かもしれませんが、代表自身も自分が辞めたら関与先の5割~7割は離れるだろうと言っています。

 

・主担当として関与先との基本的なやりとりはしていますが、会社経営に関する重要な部分は代表が一人で話を進めて担当者へは後で報告されることが多いです。担当者として、そういう場への臨席の希望は伝えたのですが、一人で動いた方が効率が良いとの返答がありました。

 

・関与先が増えていることもあり、規模の大きな会社の法人税の申告や相続税の申告など様々な業務を経験できるので実務能力は向上しますが、今後のキャリアとしてただ毎月決算を組み、税務申告をするということの繰り返しでよいのかと考えてしまいます。もちろんそれも大切なこととはわかっているのですが、決算を組むだけでなく、その先にある関与先への提案など税務コンサルティング能力も身に付けていきたいです。

 

・今年の初めに代表と二人で話した際、将来的には社員税理士になってほしいと言われました。今の状況だと所属税理士が私しかいないため、代表が引退を考えた場合、法人存続のためにはそれしか方法がないのですが、あまり乗り気ではありません。理由は主として2つありまして、1つ目は先にも述べましたが、代表が引退した場合、関与先の大半が離れることが予想されること、2つ目は、もう一人の社員税理士が事務所の将来をどのように考えているか全くわからないからです。やはり、社員税理士は経営者でもあるので事務所のことは一番に考えるべきであると思いますし、ましてや事前の連絡なしで頻繁に休むことはとてもとても理解できません。将来代表が引退した際、その税理士と二人で事務所を経営していくことがとてもではありませんが、想像できません。

・現在はおそらく同世代のサラリーマンと比して、比較的良い給与を頂いていると思います。持ち家で子供が二人おり、妻は専業主婦ですが、十分に生活できています。転職することにより、年収が下がることも十分に考えられます。やはり、生活していくことが第一であり、今すぐどうこうではありませんのでしばらくこのまま勤務し続けるべきか、または、比較的若い今のうちに転職をするべきか非常に迷い、悩んでおります。

この仕事自体は非常に好きであり、せっかく税理士になったので存分に能力を磨き、この先も続けていきたいとは思っています。今の職場も仕事は豊富で経験を積むには十分だとは思うのですが、最近になって上記の理由により、中々気持ち的に安定して業務に取り組むことができなくなってきております。現在の事務所で続けるか、転職をするか、どちらにせよ方向性が決まり、覚悟ができれば後はそっちに向かって進むだけなのですが、今は岐路に立っており一人で考えても全く結論が出ませんので相談させていただきました。
私の頭の中のことをうまくお伝えできていないかもしれませんが、ご助言を頂戴できれば幸いです。宜しくお願い致します。

 

A.
【現状と問題点】
今の50代後半以上の所長・代表者にみられる比較的良い会計事務所ですね。

 

以前は、若くして独立すれば、広告も規制されており、大手税理士法人も無く競争が緩やかだったので、都心部ならかなりいいお客様を獲得することができました。

 

個人の力で優良なお客様を引き付けているので、年齢層が上がったお客様には代表社員自らが話し相手にならないとうまくいきにくいと、代表社員は考えておられるのでしょう。

 

古き良き時代の客単価なので、顧問料は比較的高く、(安さを求めるお客様は逃げるので)客層もよく、そのため幹部、有資格者、ベテラン従業員の給与は高くなっています。

 

経営者は、前を向いて組織をリードするのが仕事です。50代後半にして営業力が落ちていないなら、優秀な方で、自分の効率を優先して一人で動いた方が稼げるはずです。

 

チェックをより細かくしてほしい等の後ろ向きの依頼は、おそらくへー様が言ってもあまり耳を貸さないで、せいぜい社員税理士に頼んでみるように言われるくらいでしょう。もっとも へー様は業界経験も長く、税理士なのですから、税務の技術は自分で完結できる程度に磨いていく必要があります。独立するにしろ社員税理士になるにせよ、いつか署名する立場になったら自分で責任を取るのですから。

 

最近では、個人事務所では営業や採用で信用が問題になり、税理士が複数そろえば税理士法人化するケースが増えています。従業員30人以下の税理士法人は、実質的には代表者の個人事務所がほとんどです。
そもそも共同経営者を目指して零細個人事務所に入ってくる方はいませんから。
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その他にも、複数の中小零細個人事務所が、バラバラの経営のまま法人化しているケースも見られます。特に開業間もない若手やTKC事務所に多いです。
経営は『共同責任は無責任』です。
思いはバラバラなので、効果も限定的で人間関係がうまくいかなくなって離れていくケースも多いです。
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実は、100人超級の税理士法人で、300人以上の税理士法人を目指すところ以外は社内に共同経営者やしっかりした後継者はあまり育ちません。その水準でないと機能分化・経営の分業が始まらないからです。

 

へー様の勤務している税理士法人の問題は
(1)ビジネスモデルが一世代古い
代表社員の方が20年前に作ったモデルで時代に合わなくなってきておりあと10年くらいは大丈夫かもしれませんがその後は衰退が予測されます。

 

(2)採用力がなく、人不足は深刻化する

都心部では、他の産業との人の取り合いが起きており、少しくらい給与が高くても高齢の代表者の零細会計事務所に若くて優秀な人材は入ってこないし、将来不安で今いる若手・中堅も辞めやすくなります。

 

就職市場は売り手市場が続いており、会計業界も、従業員100人を超える大手税理士法人か、しっかりした事業会社の経理に転職する方が増えています。

このため、都心部では30人以下の会計事務所は徐々につらくなっていくことが予想されます。

 

(3)会計事務所内にマネジメントができる方がいない
従業員10人前後の事務所の特徴は、トップが営業やお客様周りで忙しくても、 しっかりした番頭さんかお局さんがいれば現場は回ります。残念ですが社員税理士が気遣いが足りない方のため、チェック以外では番頭さんとして機能せず、代表が見ていないところが壊れてきているのでしょう。
おそらく、年齢的にも社員税理士の方の考え方は変わらないでしょう。代表社員の方の下で自分のペースで仕事をして、たまに文句も言いながらも当分はぶら下がり続けるのでしょう。それをへー様が変えることは年齢が逆なのでなかなか難しいですね。
代表社員も、営業は得意でもマネジメントは苦手なのでしょう。もしマネジメントができていたら、とっくに30人以上の事務所になっていたはずです。
(もっとも、この年代の所長の目標は従業員10人前後の事務所を作ることだったはずなので、本人はそれなりに成功して満足されているはずです)

 

【勤務している税理士法人の今後の予測】
(1)予測シナリオ1(後継者の出現 親族)
代表者のお子さんや親族が税理士法人を継ぐ場合、その方がそれなりに優秀ならいずれ落ち着いて事務所は成長を続けるでしょう。

 

(2)予測シナリオ2(徐々に売上減少)
採用がうまくいかないために、人が辞めても補充ができないので、事務所内の不満が増大する。
そのため、代表者が営業を減らし、所内の管理に神経を割く。
もともとあまりマネジメントが得意でないが、時間を使って何とかしようとする。
ただ、その分だけ営業力が弱り、徐々にお客様の伸びが減り、体力、気力の衰えもあり数年後から売上は純減に向かう。

 

(3)予測シナリオ3(内部崩壊、個人事務所化も)
代表者が社内を顧みないため、幹部の離反が起きる。
営業優先の代表者は、社内の不満を顧みずに営業を続ける。採用が追い付かず社員税理士や幹部が労働時間の長さに不満を持ち、転職又はマイペースでの独立を選ぶ。
その際に、誰かが社員税理士にならないと個人事務所に戻ることになる。
ついに所長税理士は、拡大をあきらめ、スタッフに不信感を持ってあまり信用せずに徐々に自分のペースでできる量に仕事を減らしていく。人が辞めても無理に補充せず、むしろ管理する者が減って都合がいいと、面倒なお客様を解約して縮小均衡を図る。
70代まではのんびりと税理士業務を個人事業として続けていく。

 

(2)、(3)のケースはいずれ、その税理士法人又は個人事務所は、他の税理士法人にM&Aで売却される可能性が高いでしょう。
それを潔しとしないようなら、体力が続くなら80歳近くまで現役を続けるかもしれません。

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会計事務所業界も、社会全体と同じく上位による寡占化が進んでいます。
大手の税理士法人は、自前で集客するだけでなく、M&Aに積極的なところもあります。

 

会計事務所は、実はかなり高い金額で売却が可能です(年間売上の40~90%くらい)。
大手の税理士法人に吸収されて、きちんと売却側の税理士があいさつをすれば、売る側の税理士が思っているほどには多くのお客様は離れません。
お客様が、実は高齢の先生の将来を心配しているのです。先生が勧め、在籍する大手税理士法人のスタッフに引き継がれるのですからむしろほっとされることも多いのです。

 

ただ、会計事務所のM&Aの場合、大都市圏では吸収される事務所の従業員がほぼ全員辞める例も目立ちます。地方では従業員の補充が利きにくいため、そのままの形で経営されることもありますが、都市部ではそもそも拠点を廃止して大手税理士法人の中に移すこともありますし、ルールは基本的に吸収する大手税理士法人に合わせることになります。
M&Aの場合、事業会社間でも企業文化の違いから被合併法人の社員の多くが辞めますが、会計事務所の場合は、そもそも零細会計事務所にルールがなく、各人が組織的に動いていなかったため、大手税理士法人に吸収されるとその違いについていくのが難しいのです。

 

税理士法人TOTALも、会計事務所のM&Aを4回経験しています。そのうちの2回は、他の大手税理士法人に売るとスタッスが全員辞めさせられてしまうことを心配した所長が、税理士法人TOTALを『スタッフが辞めにくい事務所』だと見込んで指名してくれたものです。ありがたいことです。
なかなか、吸収するスタッフを再教育して生かすのは難しいのです。

 

(営業広告です)
税理士法人TOTALは、採用力にも強みがあり若い税理士も抱えているため、M&Aでは比較的お声がけいただけます。
もし、会計事務所をお売りになりたい、採用やマネジメントに疲れて昔からのお客様と楽しみながら仕事をしたいという所長税理士の方がおられましたら お気軽にお声がけください。
(直接交渉すれば6~10%×2の仲介手数料が浮きます)
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(4)予測シナリオ4(後継者の出現 救世主現る)
代表者の親族に後継者がいない場合、中小会計事務所では(2)、(3)の確率が高いのですが、まれに優秀な他人後継者が出現することがあります。
人望があり、営業ができ、社内もまとめられる人が出てくると、代表者が70歳くらいになったときに経営者の地位を禅譲されます。

 

【へー様の進むべき方向について】
(1)現在の税理士法人に残ると決める場合
今いる社員税理士とうまくやるのではなく、自分が代表社員を引き継ぎ、後輩の社員税理士を育てるくらいの気持ちが必要になります。
もちろん、所長に向き合って強く頼んで、現場に同行する機会を増やしてもらう必要があります。
誰かに教えてもらうのではなく、自分が今の税理士法人の救世主になるという思いが必要です。
そうすれば、10数年後には、今の税理士法人の代表社員になっているでしょう。

 

(2)早めに転職する場合
へー様の場合、現場でお客様とビジネスについて語り合い、コミュニケーションをする経験が足りていません。
会計人の行うコンサルティングは、試算表が読めて経営数字を知っている税理士がお客様と本気でビジネスを考えて議論する中で磨かれます。
転職するなら、次はお客様とたくさん話ができる会計事務所が良いように思います。
へー様の年収次第ではありますが、将来への投資だと思って短期的には年収が下がることも覚悟しないといけないかもしれません。
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税理士法人TOTALでも、30代後半の税理士の方が年収が下がるのにSPC専門の大手税理士法人から転職してくれました。

 

SPC専門の会計事務所は、金融がらみで給料が比較的高いのですが、お客様とビジネスの話をすることはほぼありません。このため、キャリアの割にはコンサルやコミュニケーションのスキルが上がりません。
彼は遅れを取り戻すために日々頑張ってくれています。

 

近い将来、うちのパートナーになってくれるといいな。
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(3)しばらく現職にとどまる場合
家族・生活のことを考えると年収が下がってまで転職する気になれない。今すぐ現職の救世主になる覚悟もないというなら、現職にとどまったままで自分を磨くことになります。

 

(今はあまり考えていないかもしれませんが)独立するにしても、より良い条件で転職するにしても、現職でポジションを上げるにしても営業力マネジメント能力は必要です。
今までのへー様は、(実質)個人事務所で所長に言われた作業を受け身でやってきましたが、(他の産業と同様に)税理士も30代後半以降は、作業の速さや正確さよりも、営業力マネジメント能力を主体的に使えるかで評価されます。

 

代表社員やお客様の社長を見て、自分ならどう行動するかを考え、自らどこまで成長できるか努力してみてください。

 

自分の人生は、自分で決めていきましょう。最終的に、残るか、転職するかは遅くとも40歳くらいまでには決めた方が良いでしょう(四十にして惑わず)。

 

 

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この記事の執筆者

高橋 寿克

税理士法人TOTAL 代表社員税理士 高橋 寿克

千葉県船橋市生まれ。農家の12代目。税理士・行政書士・CFP®・医業経営コンサルタント。
開成高校、早稲田大学政治経済学部卒。
1999年 高橋寿克税理士事務所を開設。現在は全国16拠点に拡大したTOTAL Groupの代表として、税理士法人をはじめ、司法書士法人、社会保険労務士法人、行政書士法人を擁する。
徹底した業務の標準化やクラウドシステム(マネーフォワード、freee)活用で業務効率化を推進。「あなたと共に歩み、あなたと共に成長したい」を理念に日本一の総合士業事務所を目指している。

TOTALグループでは一年を通して採用活動を行っています

この記事へのコメント

高橋先生

お世話になっております。

お忙しい中ご回答いただきまして、誠にありがとうございました。大変参考になりました。

よく考えて、後悔のないようにしたいと思います。

本当にありがとうございました。

2018年4月16日 7:02 PM | へー

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