キャリアコラム
未経験から行政書士事務所に就職するには

行政書士求人の現状
行政書士事務所全体の市場規模は、過去10年間で2倍以上に拡大(総務省統計局:経済センサス-活動調査)しており、行政書士の社会的需要は着実に高まっていると言えるでしょう。この需要増加の背景には、グローバル化に伴う外国人関連業務の増加、法規制の複雑化による許認可手続きの専門化、そして高齢化社会における相続・遺言関連業務の増加など、社会構造の変化が挙げられます。
ここ数年の試験合格率は12~13%とその前と比較しては高めで、行政書士登録者数は直近1年間で約1,100件増加しています(日本行政書士会連合会・月刊日本行政)。しかし、多くの行政書士が独立開業する為、雇われて働く行政書士は全体の2.5%程度と少ない傾向にあります。(日本行政書士会連合会・月刊日本行政)
多くの行政書士事務所は小規模な個人事務所であり、新規人材の採用や育成に十分なリソースを割きにくいという課題を抱えています。しかし、最近では法人化やグループ化による組織的な運営を目指す事務所が増加し、長期的な視点での人材確保・育成が叶うようになりました。その様な中で求められるのは、未経験でも戦力となるビジネススキルを持った人材ではないでしょうか。
求められる基礎スキル
行政書士事務所での求人は、「行政書士補助者」と「事務スタッフ」に分かれますが、ここでは行政書士補助者についてお話します。
行政書士は、特別な実務経験がなくても国家資格を取得できるため、未経験者でも挑戦しやすい職種です。その反面、実際の業務には実務知識が不可欠であるというギャップが存在します。
まずは、行政書士業務そのものが、ある程度社会の事がわかっていないと進める事ができないということです。例えば、個人と法人の違い、戸籍や住民登録、登記、納税証明書等の公的書類の種類や内容、どの役所で何を取り扱っているか、何をどこに聞けば良いか。一般常識と基本的なビジネスマナーは必須で備えておくべきである事は言うまでもありません。
行政書士の入り口は、難解な法律知識を頭に入れることよりも、マニュアル読解や調査能力、そして必要に応じて官公署に適切に質問し、課題をまとめる能力が求められます。法律や行政手続きには手引き通りに進まないイレギュラーなケースや、未知の業務が常に発生します。自ら調べ、関係各所に問い合わせを行い、問題を解決していく能力、それに加えて、頻繁に官公署とのやり取りが発生する中で「役所に好かれる能力」即ち、コミュニケーション能力も必須で必要になるでしょう。そして、官公署に提出する書類は、わずかな誤りでも許可の遅延や不許可に繋がるため、精度の高い書類を作成する為の注意深さが求められます。
更に、依頼者の権利や利益に直結する業務を取り扱う為、強い責任感と倫理観は不可欠です。
資格は必須か
行政書士の有資格者であれば、未経験でも採用される可能性は高くなるでしょう。
しかし、無資格だからと言って諦める必要はありません。
これまでの経験で培った「PCスキル」「コミュニケーション能力」「学ぶ意欲」「正確性」「責任感」など、受験生でも補助者として活躍出来るポテンシャルが自身に備わっているかが重要です。
採用する側は長期的な貢献を期待しています。このため、就職先を選ぶ際には、単に「今就職できるかどうか」だけでなく、「どのような経験を積めるか」「将来の目標にどう繋がるか」という視点で戦略的に選ぶ必要があります。特定の分野に特化した事務所が殆どですが、多くのスタッフが多方面で活躍している事務所は、効率的なスキルアップが期待でき、将来の専門性確立への道としても有効な経験を積むことができるでしょう。
また、事務所によっては受験生に対し、専門学校費用、受験費用の補助等によるバックアップ制度を導入しているところもありますから、実務を経験しながら資格試験に挑むことも可能です。
履歴書・職務経歴書の準備
まずは1万種以上あると言われる行政書士業務の中で、自身が興味のあるものを説明出来る様にしておきましょう。
次に、志望動機では、「なぜ行政書士を目指したのか」について、過去の経験を交える等して明確に伝えることが重要です。他の士業ではなく、なぜ行政書士を選んだのかも説明できると良いでしょう。
そして、「なぜその事務所を選んだのか」を説明することが最も重要です。その事務所の得意分野や取扱っている業務内容に対し、自身の強みや経験をどの様に活かせるか、自身の成長だけでなく、事務所への貢献意欲をアピールする姿勢は評価に繋がります。
例えば筆者は、無資格かつ未経験でしたが、建設業界での勤務経験があった為、許可関係業務との関連性を含めたビジネスモデルへの理解とキャリアを示すことで、現職に就くことが出来ました。
実務経験がない場合でも、行政書士試験を乗り越えた「忍耐力」や「高い学習意欲」は強力なアピール材料となります。前職で培った汎用性の高いスキル(コミュニケーション能力、PCスキル、情報整理能力、課題解決能力など)を具体的なエピソードや数字を交えて、新しい職場でどのように活かせるかを伝えることも有効です。
未経験であることを正直に認めつつも「積極的に努力し、学ぶ意欲がある」ことを強調してください。
まとめ
未経験者が行政書士事務所で働くために重要なのはソフトスキル。ソフトスキルは法律知識よりも教えることが難しい資質であり、お客様との信頼関係構築、円滑な業務遂行に大変重要な要素として評価されます。また、有資格者であれば、自身が進みたい方向に関する法律(会社法、入管法、民法(家族法)、医療法等)の知識を深めておくのも効果的です。
行政書士業務は一つひとつが挑戦です。まずは未経験の業界に踏み込むという挑戦からスタートしてみませんか。
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皆様のご応募をお待ちしております。
執筆者
行政書士法人TOTAL
秋山 友樹子
行政書士。元マリンコントラクター勤務。主に許可申請を行う。
依頼者が新しいステージに進むためのサポートに尽力する。