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税理士は本当に斜陽産業なのか?銀行からの転職と今後の働き方

士業キャリア相談室の税理士 高橋寿克です。
「税理士は本当に斜陽産業なのか?銀行からの転職と今後の働き方」

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ご質問いただいた内容

MS様からのご質問です。

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■年齢 20代後半
■性別 男性
■資格 日商簿記2級、証券アナリスト
■職歴 メガバンク
■学歴 国公立大学
■会計事務所経験 なし
■居住地 関東の地方都市
■その他(特殊事情等)

税理士への転職を検討していますが、斜陽と言われる業界へ飛び込んでしまって良いものか悩んでおります。

家族の事情で都内から少し離れた地方都市に居住しながら東京のオフィス(現職)へ長距離通勤しております。ですが、居住地は変えずに共働きでの子育てをしたいという考えを最近持つようになりました。そこで、現職より柔軟な働き方への切り替え且つ収入ダウンを一定程度に抑える、現職のキャリアを活かす転職を検討しております。

いっそ転職先を都内に本社がある企業に限らず居住地の近隣に位置する先にしてしまおうと考えた時に税理士を検討している経緯です。

都内ほか大企業への転職も可能である(と思われる)状況で、かつ文頭のような不安要素も巷では囁かれている中で、首都近郊とはいえ大都市ではなく地方都市での税理士事務所への転職という選択肢をとることは客観的にどのように見えるかを教えてほしいです。

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回答

税理士業界の現状

MS様、ご質問ありがとうございます。

転職を検討されている税理士業界が斜陽産業に見え、具体的な転職先候補として行動に移してよいのか不安であるということですね。まずは税理士業界で働く者として、この懸念に回答したいと思います。

オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教は2013年、「THE FUTURE OF EMPLOYMENT」という研究を発表し、アメリカ内702種類の職業のうち「Tax Preparers」(税務申告書作成者)が8番目にコンピューターに置き換わる可能性が高いとしました。

また、オズボーン准教授は㈱野村総合研究所と共同で2015年、「日本におけるコンピューター化と仕事の未来」という研究を発表し、日本の「経理事務員」がコンピューター等によって自動化される可能性は99.8%としました。

その辺りからでしょうか、ビジネス系週刊誌がAIに取って代わられる業界として税理士を挙げ、継続的にこうした記事を掲載しています。これでは税理士業界に飛び込むのを躊躇するのも致し方ありません。

ただ、多くの税理士が実は全く逆の感想を抱いていると思います。

これらのレポートが発表された後も、税理士業界のいわゆる市場規模は拡大しているようです(経済産業省・経済センサスや総務省・サービス産業動向)し、税理士登録者数も増えました。

一方で週刊誌の影響なのか、税理士試験を受験する人数は減少傾向となりました。最近ではやっと増加に転じましたが、まだまだ新しく業界に入ってくる人材は不足しています。

市場は拡大している、しかし新規参入者は少ない。こうなると1社(者)あたりの売上は増えますね。おかげ様で税理士法人TOTALも拠点数、スタッフ総数ともに拡大し続けております。

税理士業界の今後

では今後はどうでしょうか。私個人としては勢いづくと思います。

オズボーン准教授らが指摘するとおり、「税務申告書作成者」や「経理事務員」の仕事が生成AI等にとって代わられる可能性は否定しませんし、きっと少なくなっていくでしょう。実際に税理士法人TOTALでも、生成AI等を使って従来の業務の効率化、合理化を図っています。

しかし、そもそも「税務申告書作成者」や「経理事務員」の仕事は会計事務所の仕事のほんの一部でしかありません。なにより、税理士の主要な仕事ではありません。税理士の仕事は、経営者の6割超が挙げてくれている(中小企業庁の小規模企業白書2020年版)ように、経営者のよき相談相手であることです。どれだけネットで調べても、生成AIを活用しても、最終的な決断をする前の相談相手は人間がいい―こう思う経営者が圧倒的に多いのです。

これは人情的な話ではなく(もちろんそれもあるのでしょうが)、相談相手として税理士が、生成AIに優る点が多いからでもあります。確かに、生成AIは莫大な過去のデータを分析して、現在合理的と思える回答もくれます。

しかし、経営の本質は、未来を予測し未来を創っていくことだと思います。明確な答えがない中で、特には前例もないような事態の中で(最近だとコロナ禍がまさにそうでした)、経営者はそれでも会社を背負っていかなければなりません。そうした未来に対する経営者の悩み解決策が、ネットにも生成AIの回答の中にもあるはずもないのです。

もちろん税理士も答えを出せるわけではありませんが、経営者の悩みを聞き、一緒に課題解決を検討し、時には経営者のプロンプト(指示や質問方法)が無くてもアドバイスするものです。こうした伴走する姿勢が高く評価されることが本当に多いのです。

銀行から税理士への転職について

さて、MS様は首都近郊の地方都市の会計事務所へ転職を検討されているとのことです。

銀行出身者は税理士法人TOTALでも働いていますが、優秀な方が多く、MS様も試験合格後には税理士として活躍されるのではないでしょうか。

ただ、留意していただきたい点としては、顧問となる「中小企業」の規模が、都市銀行の現在の顧客であろう「中小企業」とは大きく異なるだろうという点です。

このため、現在のキャリアがそのまま生きるとは限りません、というよりも、直接は生かせない可能性もあるかと思います。顧客層やそれに伴う働き方の違いをうまく受け入れられるかが、最初のポイントになるかと思います。

次のポイントとしては税理士試験でしょうか。もちろんどのくらい試験勉強に時間を費やせるかで大きく変わりますが、一流といわれる大学出身者でも合格まで数年は要するとされる試験です。ここでお薦めしたいのは、特に最初に入社する会計事務所は、試験勉強を本当に推奨しているところに入社することです。

人手不足の業界ですから、採用広告として、受験生に優しいメッセージを打ち出している会計事務所も多くあります。

ただ、受験生を迎え入れて、その受験生が辞めないで定着する環境を提供し続けることができる会計事務所は、残念ながらさほど多いとは思えません。そのメッセージが単なる広告なのか、本当なのか、これを見極めるためには、例えば採用面接等の場所で、具体的な前回試験の受験者数、合格者数を聞いてみたりするのがいいかと思います。

相談内容からは外れてしまいますが、キャリアを積まれた後は、望むのであれば、近隣の県や都内で働いたり、リモート勤務したりといったことも十分可能かと思います。お住まいの地方都市にも多くの会計事務所があるかと思いますが、給与やワークライフバランスでどうしても折り合いがつかなければ、可能性を広く外に求めることができるのも、専門士業のよいところかと思います。

また、いきなり転職するのではなく、現在の通勤時間等を利用して試験勉強を始め、1~2科目取得してから転職するのも悪い選択ではなさそうです。転職後の収入ダウン期間を減らせますし、勉強を通じてより税理士としての働き方のイメージが深まれば、万が一のミスマッチも事前に防げます。

税理士法人TOTALは2024年12月、他16の税理士法人とともに、一般社団法人  会計事務所連携協議会を立ち上げました。プレスリリースにも記載されていますが、協議会設置の最初の活動は「会計事務所業界のブランドイメージの向上」「人材の採用と育成の支援」です。まさにMS様が注視されるポイントかと思います。微力ながら、今後も会計事務所が社会インフラとしての役割を果たし続けられるよう、頑張ってまいります。

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2024年度TOTALグループ各社、税理士法人TOTAL、社会保険労務士法人TOTAL、司法書士法人TOTAL、行政書士法人TOTALの国家試験合格実績数は

  • 税理士科目合格:9名
  • 社会保険労務士:2名
  • 司法書士:1名
  • 行政書士:1名
  • 宅地建物取引士:1名

となりました。いずれも簡単ではない国家資格です。日常の仕事もこなしながら受験勉強を継続し見事合格を勝ち取ることは素晴らしいと思いますし、頭が下がります。

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執筆者

高橋 寿克

税理士法人TOTAL
代表社員税理士

高橋 寿克

千葉県船橋市生まれ。農家の12代目。税理士・行政書士・CFP®・医業経営コンサルタント。
開成高校、早稲田大学政治経済学部卒。
1999年 高橋寿克税理士事務所を開設。現在は全国17拠点に拡大したTOTAL Groupの代表として、税理士法人をはじめ、司法書士法人、社会保険労務士法人、行政書士法人を擁する。
徹底した業務の標準化やクラウドシステム(マネーフォワード、freee)活用で業務効率化を推進。「あなたと共に歩み、あなたと共に成長したい」を理念に日本一の総合士業事務所を目指している。

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