キャリア相談室

公認会計士試験から税理士試験への転向

東京都と千葉県の税理士法人TOTALの税理士 高橋寿克です。

 

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H様よりのご質問です。
■年齢 23歳
■性別 女性
■資格 不明
■職歴 なし
■学歴 大卒(詳細は不明)
■会計事務所経験 なし
■居住地 不明
■その他、特殊事情
20歳の時から公認会計士試験の勉強をはじめ、22歳で初めて試験を受け、この5月の短答式試験ではまた不合格でした。
大学を卒業してしまったことや会計士試験が急にむずかしくなってしまったこともあり、このまま見通しも立たず社会人経験を積まないまま受験に専念することに不安を感じており、税理士試験の受験に転向することも選択肢として考えています。
もともとは税理士という資格に興味があったことや、税理士試験の科目合格制度のことを考えると、自分には税理士の方があっているのかもしれないとも思ったりしています。

 

Q.1
このまま会計士受験を続けるのか、税理士試験に挑戦するのかすごく悩んでおり、現場で活躍されている税理士さんのご意見やアドバイスをいただければと思います。

 

Q.2
税理士試験に転身する場合(今年の8月に簿記論と財務諸表論を受験)
今年2科目受験したのちすぐに就職活動をはじめるのか、
もう1年受験に専念して税法科目をじっくり学んで受験したのちに就職活動をはじめるのかで悩んでいます。
自分の中では税法科目の勉強に専念する期間が必要な気がするのですが、一年就職の時期を遅らせることで年齢や実務経験を有していないことについて不利になることはありますか。

 

A.1
(1) 公認会計士試験の現状
公認会計士業界を取り巻く環境は、
07、08年の公認会計士試験の大量合格・大量採用、
リーマンショック以後の不況、
IPOバブルの崩壊、上場会社数の減少と激変し、
最大手の監査法人ですら赤字という厳しいものです。
一部にIFRSによる特需に期待する意見もあるようですが、J-SOXと比べると、限定的影響で、人余り・価格下げの現状を変えるほどの力はないのでしょう。
昨年は、論文式試験合格者が大量に就職できずに社会問題となりました。
このため、金融庁は懇談会を開いて、公認会計士試験を変更する予定で、「准会計士」という中間資格を設ける等の対策を検討中です(その後、廃案になりました)。
ただ、本質的な原因は、社会の需要を超える公認会計士の増加にあるので、試験合格者数の減少か採用面接でふるいをかけて、従来の難関試験に戻ることと思います。
短期的には、合格者の減少、就職難は避けられない状況です。論文合格者の分布を見ると学生(会計専門職大学院を含む)が在学中に合格するか、社会人経験なしで25歳まで、社会人経験があっても30歳くらいまでには論文合格しないと危険でしょう。
H様の場合、もし、来年(悪くても再来年)には合格できるという自信があるのならこのまま受験を続けてもいいと思います。そうではなく、大企業の監査の仕事をあきらめられるなら、転身を検討した方が無難でしょう。

 

(2) 一般企業への就職
一般企業への就職はかなり厳しい状況ですが、年齢が若いので、学歴が高いか、コミュニケーション能力(や容姿)に自信がある場合、一般企業への就職も良いと思います。
会計業界で働きたいという思いがあるなら、一般企業で働きながら、税理士試験を受験しても良いでしょう。仕事と受験の両立は、会社によっては可能ですし、社会人教育は会計事務所より、大手企業の方が優れています。

 

(3) 会計事務所・税理士事務所への就職
監査はあきらめられるけれど、会計業界で働きたいという場合は、会計事務所への就職が考えられます。
最低1回、税理士試験の受験後の就職をお勧めします。

 

・ 今年の税理士試験願書を提出しているなら、簿記論・財務諸表論をなんとしても合格すること
・今年は税理士試験願書を未提出なら、来年に向けて簿記論・財務諸表論と消費税を勉強すること
 (ミニ税法でもOKですが法人税法を含む3科目受験はおすすめしません)

 

公認会計士試験を本気で受験していたなら、会計科目は合格に近いレベルにあるはずです。出来るだけ早く合格しましょう。
税法は1科目だけでも合格すれば大学院免除が可能です。夜間や週末の大学院もありますので気は楽です。
公認会計士試験は頭の切れや瞬発力が要求される試験です。これに対して、税理士試験は、まじめな努力や記憶力が要求されます。大学院免除ならそうでもありませんが、試験で5科目合格しようと思うと、最後までやりきるという強い気持ちが最も重要になります。

 

なお、税理士法人TOTALにも、H様と同じく公認会計士を卒1まで受験してから税理士試験に転じたスタッフもいます。入所前に、簿記論・財務諸表論・消費税法を合格しています。現在、夜間大学院に在籍しており、もう少しで新しい税理士が誕生する予定です。
また、私の場合は、元々は官僚になって「世のため、人のため」に働きたかったのですが、病気等があって挫折し、楽そうに見えた(大いなる勘違いですが)税理士試験に転じて、今は楽しく仕事をしています。
税理士業務は刺激的で、面白いです。新鮮な発見があり、飽きがきません。形はだいぶ変わったけれど「世のため、人のため」に働いているという思いもあります(「仕事」ってそういうものなのかもしれません)。
H様の人生にとって何が良いのかは、誰にも分かりません。
まずは、自分が、何がしたいのか、どう生きて生きたいのか、あとどれくらい試験をがんばれるのかを今一度考えてみてください。

 

A.2
税法受験をしてから就職するかどうかは、
(1)受験に専念する経済的余裕があるか
(2)今年の簿記論・財務諸表論が合格水準か
(3)最初の就職先は、中堅以上の会計事務所が良いか
(4)大学院免除を使って出来るだけ早く合格を目指すか
によると思います。

 

H様の場合、
(1)金銭的には問題ないということですよね。
(2)簿記論・財務諸表論が合格水準に達しない場合、
   専念して、税法も加えて受験すべきでしょう。
(3)中堅以上の会計事務所は最低でも税法
   (法人税・消費税・相続税が望ましい)
   の受験経験が必要です。
   3科目~4科目合格を条件にしているところもあります。
   会計業界未経験の方は、環境が許すなら税法を含む
   2~3科目合格を目指すのが
   優良な税理士法人に就 職する近道だと思います。
(4)大学院免除を目指すなら、
   小規模会計事務所にまずは就職して
   免除後、中堅会計事務所以上に転職する
   という選択もありえます。
   ただし、今の就職状況では、学歴が低く
   (MARCHくらいまでは全く問題ありません)、かつ、
   実務経験が乏しい大学院免除の方は、
   かなり採用されにくいと思います。

 

1年、就職を遅らせることは、H様の場合は全くマイナスにはなりません。
税法受験経験がある方が、会計事務所の教育コストが下がり、むしろ就職には有利でしょう。
ただし、その後も数年間にわたってずるずる専念すると危険です。
大学院に行く気がないなら、法人税(資産税メインなら所得税でも可)を受験すると良いと思います。
税法を何科目受験するかは、言うまでもなく、年末の結果次第となります。
まずは、今夏の試験、がんばってください。

 

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執筆者

高橋 寿克

税理士法人TOTAL
代表社員税理士

高橋 寿克

千葉県船橋市生まれ。農家の12代目。税理士・行政書士・CFP®・医業経営コンサルタント。
開成高校、早稲田大学政治経済学部卒。
1999年 高橋寿克税理士事務所を開設。現在は全国17拠点に拡大したTOTAL Groupの代表として、税理士法人をはじめ、司法書士法人、社会保険労務士法人、行政書士法人を擁する。
徹底した業務の標準化やクラウドシステム(マネーフォワード、freee)活用で業務効率化を推進。「あなたと共に歩み、あなたと共に成長したい」を理念に日本一の総合士業事務所を目指している。

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