税理士試験の難易度と公認会計士試験

2009年05月17日高橋

Q. いつもこのサイトを閲覧させていただいております。
私も税理士試験を始めたばかりで、他業界のものですので、このサイトはとても参考になります。
本日は、このご回答の以下の部分の詳細がどうしても気になりましたので、先生の私見をお聞かせいただきたく、投稿させていただきました。
>なお、私見ですが、これから、税理士試験の難易度は若干下がると思います。

 

A.
このサイトの趣旨が税理士業界・会計事務所への就職・転職を考える方への情報提供なので
少しでもお役に立つのであればうれしいことです。
上記の私見については単なる個人的な分析なので書くべき事柄ではないと思い省略したのですが、「どうしても」というせっかくのご依頼ですので雑談だと思って気楽にお読みください。

 

学生は、元々、社会情勢に影響された就職活動をする傾向が強いようです。
私の学生時代(バブル絶頂期)は金融業、その後SE(女性)、公務員・資格、外資系・ベンチャー起業、弁護士(新司法試験)というようにその時代に華やかなものを選びます。
銀行は若年退職を生み出し(40代前半にして同期で都市銀行に残っている者は必ずしも多くありません)、SEの女性は30代で挫折し、公務員はこの後、大変でしょう。医師・公認会計士以外の資格は評価が下がり、外資系は投資銀行が壊滅的で、ITベンチャーのバブルははじけ、新司法試験の弁護士はノキ弁(軒先だけ借りて営業し、給料ももらえない)も。

 

近年はネットで情報収集するので転職組を含めて行動が極端に一方に偏るようになっています。30代の医者や司法書士が新司法試験に転進したのは行きすぎかもと思います。
ちなみに私の妹もロースクールに通っており、法曹の門戸を広げるその考え自体はすばらしいと思います。子育てとの両立はかなり大変ですががんばってほしいものです。

 

今、超過利潤が発生しておいしい資格と考えられているのは公認会計士でしょう。J-SOXや会計基準の変更で、需要が急拡大し、かなり高給になりました。このため、合格者を以前の何倍にも増やし、試験の難易度は逆にだいぶ下がりました。
従来は税理士試験に受験していた学生や、30前の転職組の一部さえもTAC等の専門学校で公認会計士受験を勧められています。
結果として税理士試験の受験生が短期的に減っていますし、若くて記憶力やスピードがある人はそれ以上に減っているはずです。
税理士試験は科目合格制度なので、受験生の母集団変更の影響はかなり長期間にわたるでしょう。今、簿記論・財務諸表論を始める人は合格するのはかなり楽になるのでは。

 

ちなみに、弁護士は法化社会の進展・コンプライアンス重視の流れの中で需要がおそらくこの20年間で2倍以上に増えたにもかかわらず合格者が6倍に増えたために食えない人が出現し、新司法試験開始からわずか数年で受験者が半減、社会人からの転職はさらに激減しています。
公認会計士も、上場企業数や業務内容を考えると需要は2倍に増えました。しかし合格者は需給ギャップを埋めるために600人くらいから3000人以上に5倍増えました。
直近では上場会社数は減少に転じており、メーカーを中心に業績不振に伴いコスト削減圧力は強いはずです。今、受験を始める人が数年後合格するときは、J-SOXや会計基準変更の特需も一段落し就職難・待遇の悪化は避けられないかもしれません。
いざとなれば税理士登録でと思っても、試験に合格しただけで監査法人に就職できなければそれもできません。
(開成学園の後輩で過去の会計士就職難の時期の合格者でベンチャー企業に転じた方もいました)。
畑違いの税理士としての営業も細かい税務も楽ではないはずです。
新司法試験同様、いずれ、それが受験生にわかると、公認会計士受験生は減少し、税理士受験生が増加するでしょう。それまでには時間がかかるので、その間は税理士試験の合格レベルは下がるでしょう。

 

税理士に限らず、弁護士、公認会計士、司法書士、社会保険労務士等、資格で安泰ということは今後はないと思います。資格はあくまでスタートラインに過ぎません。人格・技術を磨き続ける必要がありますし、上下差は拡大し、営業力がないとはますます食べられなくなるでしょう。

 

かつて司法試験(受験初年度で短答合格も、その後体調不良で断念しました)、税理士試験、司法書士が合格、私は半年くらい講座に通いました)を受験した経験からも、現在の税理士試験は難関だと思います。一定期間の努力が必要とされます。ただ、知識を正確に記憶するのは実務をするうえで役にも立ちますし、いざとなれば大学院免除もあります。
合格レベルが下がるのは短期的にはむしろ望ましいのかもしれませんし悲観もしていません。
私は税理士の仕事が好きですし、社会のためにがんばっているのだという自負もあります。

 

以上はあくまでも私見です。この件で議論するつもりはありませんし、特定の資格・職業を批判する意思もありません。ちょっと書きすぎかもしれませんがご容赦ください。

 

この記事の執筆者

高橋 寿克

税理士法人TOTAL 代表社員税理士 高橋 寿克

千葉県船橋市生まれ。農家の12代目。税理士・行政書士・CFP®・医業経営コンサルタント。
開成高校、早稲田大学政治経済学部卒。
1999年 高橋寿克税理士事務所を開設。現在は全国16拠点に拡大したTOTAL Groupの代表として、税理士法人をはじめ、司法書士法人、社会保険労務士法人、行政書士法人を擁する。
徹底した業務の標準化やクラウドシステム(マネーフォワード、freee)活用で業務効率化を推進。「あなたと共に歩み、あなたと共に成長したい」を理念に日本一の総合士業事務所を目指している。

TOTALグループでは一年を通して採用活動を行っています

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